2024年8月、株式会社K-BALLETとフランスのWear Moi社はユニフォーム・パートナー契約を締結、K-BALLET ACADEMY/K-BALLET SCHOOLの新ユニフォームとしてWear Moi社のバレエ用品を採用するほか、K-BALLET TOKYOにおいてもシューズ他のバレエ用品に協力を仰ぐこととなった。2024年末に来日したWear Moi社のクリストフ・リデ社長はモナコのモンテカルロ・バレエ団で踊った経験のある元ダンサー。K-BALLET ACADEMY/K-BALLET SCHOOLの蔵健太校長とバレエ・ウェアへのこだわりを語った。

フランスのブール=カン=ブレス出身。ブリジット・ルフェーヴル監督のもとでBallet Théâtre du Silenceでプロダンサーとしてのキャリアをスタート。ジャン=クリストフ・マイヨーが率いるトゥール・バレエに参加。その後、ジャン=イヴ・エスケールが監督を務めるモンテカルロ・バレエ団に所属。26歳でダンサーを引退した後、ダンスウェアブランドWear Moiを発足。妻であり、元プロダンサーでもあるエリザベス・ミエッジ・リデと共に、このブランドを世界的に知られる存在へと成長させ、30年にわたり、その質と上品な美しさで世界的に高い評価を得ている。

北海道生まれ。1995年ローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラーシップ賞を受賞し、英国ロイヤル・バレエ学校に入学。97年英国ロイヤル・バレエ団に入団、2006年ソリストに昇格し、「眠れる森の美女」ブルーバード、「ロミオとジュリエット」マキューシオ等主要な役を踊る。14年より日本人初の英国ロイヤル・バレエ学校の教師として全学年を指導。23年Kバレエ アカデミー / Kバレエ スクール校長に就任。
リデさんの経歴をおうかがいできますか。
リデ 17歳でプロのダンサーとしてのキャリアをスタートさせ、背中を痛めて26歳で引退しました。ブリジット・ルフェーヴル(元パリ・オペラ座バレエ団芸術監督)主宰のコンテンポラリー・ダンスのカンパニーで踊った後、ジャン=クリストフ・マイヨー(現モナコ公国モンテカルロ・バレエ団芸術監督)率いるバレエ・ドゥ・トゥールに移り、その後モンテカルロ・バレエ団でもコール・ド・バレエとして踊りました。モンテカルロ・バレエ団時代に振付も手がけ、コスチュームも担当しましたが、振付よりコスチュームの方がおもしろいなと。当時同僚だったエリザベスとは結婚して30年になりますが、彼女はダンサーとしてのキャリアを追求したいと願っていましたから、一緒にツアーをしてレオタードを作るのもセカンド・キャリアとしていいなと思いました。レオタードを作ることで自分自身を表現しているところもあり、私にとっては芸術の形なんだと思います。始めたころは自分の製品が選ばれるか不安だったので、「私を着て!」というメッセージをこめ、英語とフランス語を混ぜて「Wear Moi(Wearは英語で“着る”、Moiはフランス語で“私”の意味)」とつけました。着用した人の外見を美しく引き立て、着ていて心地よく感じるものであってほしいと願いをこめて作っています。ストレッチの効く素材を扱う上では、ストレッチがどの方向に効いているかを見極め生かす高い技術が必要です。横ではなく縦に効かせないと上下運動ができなくなる。ダンサーとしてはできるだけスリムに見られたいという気持ちがあるから、生地をカッティングして縫い合わせる上でも身体の造形にぴったりとフィットさせなくてはならない。胸郭を考えて上半身のカットを行ない、スカート部分についても、その人のウエストラインを見極めた上で少し下にフィットさせないと、脚が短く、胴が長く見えたりします。脚部分のカットも高すぎず低すぎず、微妙なところの見極めが必要になってきます。技術的な問題と美的な問題とを高いレベルで融合し解決することが大切です。

蔵校長はたびたびうなずきながら聞いていらっしゃいました。
蔵 Wear Moi社の製品を採用した理由がそこにあるなと。アジア人の骨格は変化しており、僕がK-BALLET ACADEMY/K-BALLET SCHOOLに着任したとき、今の世代の生徒、そしてその下の世代の生徒の骨格を考え、ユニフォームをアップデートする必要があるなと感じました。ネックラインはもっと広い方がいいし、ストレッチも横より縦に効いている方がいい。レッグラインも、腰骨の動きに制限が生じるカットだと脚を素早く上げるといった動きに瞬時に対応できず、ダンサーにとっては、身体の動きのコントロール、パワー、スピード、そしてヴィジュアル・イメージを失うということを意味します。あるがままの身体とそこから生まれる動きに敬意を払ったレオタードが必要だと考え、Wear Moi製品についてカンパニーの人間に話をしたところ、すでにクリストフにコンタクトをしていたことがわかって。一昨年の10月にクリストフと会い、求めているものについて話をしました。生地のストレッチが上下ではなく横に効いていると、ヒップが前方向に押し出され、それだけターンアウトが困難になります。身体の動きに制限が生じるレオタードを着用して踊った場合、ヒップや背中、首などに怪我をするリスクも高くなる。そもそもバレエはヴィジュアル・アートですから、身体のラインやデコルテを美しく見せるレオタードが必要であることは言うまでもありません。そんなことを語り合いました。
リデ 採用された色のレオタードは日本市場に向けて我々が開発していた商品だったんです。日本人の肌や髪とマッチし、美しく見せる色だと思いますし、それもまた、健太が語った意味でのヴィジュアル・アートに奉仕するということだと思っています。

お二人の出会いは蔵校長がロイヤル・バレエ団で踊っていたころにさかのぼるとか。
リデ 1997年、98年ごろかな。僕はロイヤル・バレエの男子のタイツ担当として、一人一人のダンサーにタイツがフィットするよう心配りしていて。そのころ妻がイングリッシュ・ナショナル・バレエで踊っていたのでロンドン在住で、イングリッシュ・ナショナル・バレエ、バーミンガム・ロイヤル・バレエとも仕事をしていました。
蔵 クリストフは昔からサポートを惜しまない優しい人で、だからレオタードのリニューアルを考えたとき、まっさきに思い浮かんだのかもしれません。Wear Moi社のレオタードを導入して驚いたのはその軽さです。
リデ 素材にマイクロファイバーを使っていますからね。
蔵 カッティングも、脚が前からも後ろからもより長く見え、首も長く見えるようになっている。ウエストもより締まって見える。私が着任して最初の年で、レッスンの内容も新しくし、内容的にはハードだったかなと思うのですが、このユニフォームを導入してから怪我も減ってきました。生徒たちがよく口にするのは、身体をより軽く、自由に感じるということ。身体の可動域を広げることの重要性を感じています。
リデ レオタードは、素肌に着用するという意味では下着や室内着のようにインナーウェアであり、スタジオにおいては、8時間もの間、先生や自分自身の視線にさらされ続けるものでもあります。そこに繊細な注意を払って仕上げることが大切だと思っています。レオタードの表側と同じくらい、裏側の仕上がりにも力を入れていて。素肌にそのまま着用するものですから、ステッチが表に出ているようだと当たってしまいます。我が社の製品はそのようなことがないようにしています。
蔵 ダブルステッチになっていますよね。立体裁断になっていて、骨性胸郭も制限なく動かせるし、伸ばす、曲げるといった動きも自由自在です。腕も動かしやすい。
リデ 生徒たちはこれからますますテクニックを磨き、上手く踊れるように、きれいに見えるようにならなくてはなりません。我々のレオタードはスタート地点で大きな力になるものだと思っているんです。
蔵 美しく見え、着心地よく踊れるレオタードを毎日身に着けることができて、生徒たちはとても喜んでいます。それぞれ好きなウェアでレッスンに参加していい日を設けていますが、Wear Moi導入後は、みんなやっぱりWear Moiを着てくるんです。
リデ それはうれしいな。
蔵 テクニックのレベルを引き上げることにも貢献していると思います。カッティングと生地のストレッチ方向、そしてステッチの入り方によって、例えばアラベスク・ラインにせよ、より美しく見せることができるようになった。身体の動きが制限されることなく、よい形でサポートされるという利点もあります。例えば一例ですが、昨年はユース・グランプリ日本予選にアカデミーから4名が参加し、全員が決勝進出して海外スカラーシップ賞を受賞、2名がニューヨークでの決選に参加できるという成績を収められたのも、Wear Moiあってのことだったと思っています。インプロビゼーションの授業でも、生徒たちの視野が広くなり、よりクリエイティブでおもしろい踊りが生まれるようになりました。
リデ 生徒たちが自分自身の身体や踊りによりよい目を向けられるようになったのならうれしいことです。レオタードはインナーウェアに近いものですから、安全性を感じられるものであると同時に、自分自身の身体感覚を拡張するものでなくてはなりません。身体のラインについても、出すべきところは出し、出さなくていいところは出さない、そのあたりのさじ加減が求められていると思っています。

リデさんの奥様もデザインに関わられているのですね。
リデ 当初から関わっていて、今は、彼女がデザインやさまざまな素材の導入を担当し、私が技術的な部分を担当すると同時に世界を回ってそれぞれのマーケットで必要とされるものを調査するという感じです。例えばネックラインにせよ、妻の意見は大きいですね。10メートル離れたところにいたら、5ミリの差なんてわからないかもしれない。でも、高いレベルに達したダンサーにとっては、その数ミリの違いが、舞台に立って踊る上で本当に重要で、だからこそ、健太もうちの製品のよさについて理解してくれるんだと思います。舞台上のダンサーは観客の視覚を操る存在です。どうしたら少しでも足を、腕を長く見せることができるか、妻のエリザベスが製品に対して述べるのはそういう見地から出されている意見なので、我々の製品をコピーしたところで、ダンサーとしての高いプロフェッショナリズムの裏打ちがなければ同じものは作れないと自負しています。
蔵 ダンサー時代の僕は自分の見え方が好きじゃなくて、少しでも腕も脚も長く見えるよう衣装の着こなし方を考えていました。引退し、ロイヤル・バレエ・スクールの教師になったとき、最初の仕事の一つがやはりレオタードをアップデートすることで、その際、細かな点まであれこれ語り合ったことが、レオタードについての僕の考えを変えてくれた。本当にわずかのカットの違いやステッチの入り方の違いで身体の動きが変わってくるんです。

Kバレエの舞台の印象はいかがですか。
リデ 『眠れる森の美女』(2023)を観て感銘を受けました。熊川哲也さんは、大胆なパフォーマンスによって多くのものをバレエ界にもたらした、世代を代表するダンサーです。『眠れる森の美女』を観たとき、まずは視覚に入るすべて、舞台美術、ダンサーたち、衣裳が非常に美しいことに驚きました。そのとき私は偶然熊川さんの近くの席に座っていましたが、20数年前、舞台上で観たときと同じように彼の情熱を感じました。舞台上で踊っていなくても、カンパニーを通じて一つの強力なステートメントを発していると感じたんです。名ダンサーと言えど名クリエイターにはなかなかなり得ませんが、彼はその例外だと思います。大がかりなバレエ作品を上演する上ではコストがかかりますが、熊川さんはテレビ局や劇場の力をも融合させてそれを成し遂げている。ダンサーが舞台で自分を表現することを可能にし、非常にレベルの高いバレエの舞台を多くの日本の観客に提供している、それは世界的にみても特別で、驚嘆すべきことだと思います。
コラボレーションの今後についておうかがいできますか。
蔵 アンダーショーツやポワントシューズ、大人の生徒のための製品、そしてカンパニーのためにもいろいろお願いしていく予定です。
リデ ポワントシューズについても改良を重ね、バレエの経験のない方、初めてはく方に最適の製品を開発しているところです。フィット感を大切に、怪我をしないよう、スクールやアカデミーの先生方の意見も参考にしていきたいですね。
蔵 プロフェッショナルなダンサーのためのポワントシューズと生徒たちのためのポワントシューズでは要求されるものが違ってきますからね。怪我をしにくい、安全性の高いやわらかいものが好ましいと思いますし、トゥやアーチをきれいに見せるための長さにこだわることも大切になってくると思います。生徒たちが心地よく美しくあることが大切で、その上でこのコラボレーションは成し遂げ得るものが多い関係性だと感じています。
リデ バレエという芸術に対して同じ価値観を共有していると感じられるKバレエとの仕事は本当に心地いいものです。熊川芸術監督が情熱をもって仕事を進めていることに心打たれますし、彼が追い求めるものを我々も追い求めていきたいと感じています。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

Wear Moi社は創業30年を誇り、“ダンサーによる、ダンサーのためのウェア”をモットーに創設された。創業当時より、その高い品質性や機能性、そしてアイコニックなデザインにより、世界中のバレエ業界やバレエ学校で高く評価されている。
過去には、ジョン・クランコ・スクール、イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクール、ヒューストン・バレエ・アカデミー、ボストン・バレエ・スクール、ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエなどの公式ユニフォームとして採用され、プロからも信頼の厚い。





