Kバレエ タイムズ K-BALLET TIMES

【校長コラム】Vol.2 舞台で力を出し切るための「緊張」のコントロール法 - 蔵健太(K-BALLET ACADEMY/K-BALLET SCHOOL校長)

2024.03.16
校長コラム

Kバレエ アカデミーでは、多くの実技プログラムをカリキュラムに組み込んでいますが、生徒が人前で踊る機会を増やし年間のパフォーマンス・イベント数が多いことも大きな特色です。

その中でも最も大きなイベントの一つ、アセスメント(試験)が12月に行われました。生徒の成長具合を評価し、現状と今後の目標を正確に理解することを目標としています。

アカデミー開校後初めてのアセスメントでは、「バレエクラス」「クラシカル・ソロ」「コンテンポラリーダンス」の3カテゴリーで審査を行いました。バレエクラはKumakawaメソッドをもとに、私がコンビネーションを作成し、当日は審査員のほか、熊川ディレクターにも生徒の成長を見ていただく貴重な機会になりました。

アセスメント後に。熊川ディレクターとMenクラスの生徒たち
アセスメント後に。熊川ディレクターとMenクラスの生徒たち

アカデミー教師とは毎週ミーティングを行い、常に生徒の進捗状況を確認していますが、開校当初、多くの生徒が悩んでいたのが、パフォーマンス前やパフォーマンス中に感じる「緊張」についてでした。長年バレエ教育に携わってきていますが、過度の緊張により本番の舞台での行動力や判断力が鈍くなり、自分の力を出し切れず、舞台後に落ち込むダンサーをたくさん見てきました。ダンサーは、舞台上で全身をコントロールするために適度に心を昂らせ、冷静に自分を客観視する能力が必要となります。舞台で動いている際に、今自分が何をしなければいけないのか、客席からどう見えているのか、一瞬で判断しなければいけませんが、緊張をコントロールできなかったために成功を掴めないダンサーを見るのはとても残念なことです。

教師陣にKumakawaメソッドを共有する統一ミーティングを 視察も兼ねて、4月に開校する後楽園校で実施
教師陣にKumakawaメソッドを共有する統一ミーティングを視察も兼ねて、4月に開校する後楽園校で実施

緊張について、アドバイスを求められた時に私がいつも伝えていることがあります。「緊張するのは当たり前。舞台に出ることに対して適当に考えていたら緊張はしない。バレエが大好きで、舞台で成功したいと強く思うから緊張するのだ」と。そして「緊張した時の感情は自分を大切に思っている特別な時間であり、その時間を大切にしてほしい」ということ。

具体的に緊張をコントロールする方法としては、「緊張」という言葉を「エキサイト」や「ワクワク」という言葉に置き換えてほしいと話しています。例えば、「今とも緊張している」ということを「今とてもワクワクしているという言葉に変えて、心で呟いてみるように勧めていま。経験上、自分の心が楽しくなければ舞台上でエネルギーをコントロールすることができないと思っているからです。「ワクワク」することで不安が減り、そうすると音楽と踊りを楽しむことで胸が躍る、そして自分の身体を思いどおりに動かしやすくなる、それは舞台で成功する近道に繋がる、という相乗効果です。

実はこの「ワクワク」という言葉は、約30年前に私が英国ロイヤル・バレエ学校留学時代に、熊川ディレクターから教えていただいた言葉なのです。ディレクターは当時緊張しがちだった私を見て、「自分がもっと挑戦したいから緊張しているんだよ、だったら不安を持つ時間より、もっとワクワクする時間を増やさなきゃ」と、話してくれたのです。

ワクワクするということは、失敗してよいということではありません。私はプロフェッショナル・ダンサーとアマチュア・ダンサーの大きな違いは、プロダンサーは「絶対に失敗しない」ということだと思っています。「成功するのが当たり前、失敗しないのも当たり前」なのがプロのダンサーなのです。世界で活躍するダンサーは必ずこの「当たり前」の理念を理解している方たちばかりです。とはいえ、バレエを理解している方なら、この「当たり前」を体現することの難しさもまたご想像いただけると思います。バレエを続けていると、楽しいことばかりではありません。舞台上で一瞬の輝きを放つまでには、時に壁にぶつかることがあれば、怪我をすることもあります。頑張り続けることは当たり前、いつもポジティブに学ぶ姿勢を保つのも当たり前と、口では簡単に言えますが、この当たり前を常に実行し、成功し続けるのは大変なことであり、長い年月での自己管理のほか、我慢と忍耐が必要となります。

そのような厳しい世界に挑むアカデミーの生徒には、技術を教えることはもちろんのことですが、生徒たちの心のケアも忘れずに、日々のポジティブ・マインドセット作りに力を入れています。

普段のレッスン内では常にレッスンテーマを設け、「何を」「なぜ」「どのように」行うかを生徒に説明し、生徒が自らの動きの仕組みを正確に理解し、自ら考えて動けるダンサー作りをコンセプトとし、生徒一人ひとりが「わかる」「できる」「楽しい」と感じる教育活動ができるよう心掛けているのです。

このような生徒たちとのコミュニーケーションを大切に、これからもプロとして「当たり前」を実行できる生徒たちを育てていきたいと思います。

「Artist Creative Talk」と題して第一線で活躍する方々のお話を聞く会を定期的に開催。1月にお招きしたのは島地保武先生
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1月、中国・深圳のバレエ学校に招聘され、ワークショップを開催
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