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【校長コラム】Vol.8 ローザンヌ国際バレエ コンクール/YGPジョブフェア 世界各国の指導者と議論した“現代バレエ界が直面する問題” - 蔵健太(K-BALLET ACADEMY/K-BALLET SCHOOL校長)

2025.12.01
校長コラム

9月より新学期が始まったKバレエ アカデミーとプレ・プロフェッショナルコースですが、まずは昨学期の嬉しいご報告からお伝えします。昨年度は6名がKバレエ トウキョウへ入団、1名が海外留学を果たし、卒業することができました。これは生徒一人ひとりの努力の結晶であり、大きな励みとなる成果です。

実は彼らも最初から順風満帆であったわけではありません。入学した当初、特に外部からの入学生にはスタミナや基礎テクニックに課題が見られました。私たちはまず練習時間の確保と、基礎の見直しから取り組み、手足の軌道や配置、ポール・ド・ブラ、エクステンション、コーディネーションなど、動きの根幹を整える反復練習を行い、フィジカルサポートクラスでは身体づくりやボディメンテナンスの見直しを徹底しました。

 また、オーディション直前期には模擬リハーサルを行い、ステップを素早く覚えるためのシークエンス力や、審査で問われる様式・呼吸・視線の使い方を細かくコーチング。内部コンクール前には動画チェックを行い、ラインやフォームの微調整も徹底しました。

 「自分の強みを語れる」表現の育成を心掛けたその結果、見違えるような成長を遂げ、プロとして通用する舞台力を身につけた生徒たちが次々と合格を勝ち取りました。

ただし、今回就職につながらなかった生徒たちにも伝えたいことがあります。この1年ですべての生徒が確実に“職業スキル”を高めました。バレエを通じて身につけた規律、継続力、時間管理、身体理解、観察力、集中力、チームワーク、表現力、国際性――これらはどの道に進んでも必ず役立ちます。バレエで培った力を活かして、コンディショニングやフィジカルの指導者、整形外科などの医療分野、舞台制作、ウェルネス系の職業、ダンス映像の撮影や編集者、バレエ用品の開発・販売職など、さまざまな分野で活躍している卒業生も多くいます。皆さんの中にあるバレエの時間はどの道に進むことになっても決して無駄ではありません。次の選択を支える確かな力になっていると、私は信じています。

Kバレエ トウキョウに入団した卒業生は、さっそく『ドン・キホーテ』の舞台に出演。(前列左に川村咲子、右に後藤望和)

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10月には、私自身3回目となるYGP(Youth AmericaGrand Prix)JAPAN 2026の審査員を務めました。

 今回もまた世界中の審査員と時間を共にする中で、踊りの「流行」とも言える変化を感じることがありました。例えば音楽については、テンポを落として“語る”ように踊る方が多く、これには賛否両論ですが、逆にアラベスクなどはライン優先で、無理な過伸展を避ける傾向にあるのは良いことだと思います。ピルエットは軸の「静けさ」を重視して審査している方が多かったです。ただ連続回転系を序盤に見せる方が多く、これにはフィギュアスケートの大会のようという声もありました。

 ジャンプについては、高さよりも空中形の明瞭さと通過ポジションの正確さが評価され、空中で1番や5番を通過する際のポジションなど、足の軌道が重視されます。グリッサードなどでも、送り脚の通り道などが評価の対象となっていました。ポワントから降りる際のロールスルーの的確さについては、審査員同士で話し合う場面もあり、着地音の静けさも重視されていました。プレ部門では顔のプレイスメントや顎のアクセントの取り方の工夫を多くの審査員が褒めていたことが印象的です。

 演目については、審査員たちは成熟した大ダンサーが踊る長いソロよりも、シンプルで音楽性を重視した短めのソロを好む傾向があると感じています。

 1200名以上が参加したこの日本予選において、当アカデミーからは5名が出場し、うち3名が見事に受賞しました。日々の地道な準備、体調管理、教師陣の献身的な指導、仲間同士の支え合い――すべてがこの結果を支えたと思っています。アカデミーでは、コンクールで踊る曲は技術を強化するためか、現時点の完成度重視かの目的設定をし、生徒それぞれにあった演目を選定するところからこだわっています。イベント出演などもありながら、教師陣の熱い指導とそれに応えた生徒たちの努力を誇りに思います。

 とはいえ、私が最も大切にしているのは「結果」ではなく「過程」です。そこから見えた課題も明確です。下半身ラインの正確さ、動きの流れ(フロー)、音楽性の解像度、感情表現の深度――これらは今後の成長を導く“伸びしろ”なのです。この課題を自覚し、映像分析やノートでの振り返りを通じて「自分で自分を育てる力」を磨くことこそ、真のプロフェッショナルへの第一歩です。

 目標達成力、自己分析力、自己管理力は、人生のどの舞台でも生かせる力です。焦らず、着実に、今得た学びを次のステップにつなげてほしいと思います。

 これからもアカデミーは、生徒一人ひとりの「可能性を信じる教育」を大切に、次の世代のプロフェッショナル育成に力を注いでまいります。

YGP JAPAN 2026に審査員として参加し、ワークショップを指導する蔵健太。

YGPに挑戦した生徒の様子やアカデミーの活動の様子をYouTubeでも紹介しています!