Kバレエ アカデミーが開校し、9カ月。あっという間に流れる時間の中で、生徒たちの変化や成長を見ることが私の日常の楽しみでもあり、特に子供たちが舞台で活躍する姿を見るのは、教師生活の中でも特別なイベントの一つです。今年3月にはアカデミーの「東京クリエイティブサロン2024」への出演、そして4月にはKバレエ アカデミーとスクールとのパフォーマンスが行われ、Kバレエ全校生徒の成長ぶりを見ることができました。

Kumakawaメソッドによるバレエクラスと、『ライモンダ』よりグラン・パ・クラシックを披露した
私も二児の父親ですが、子供が夢中になって頑張っている姿を見るのはやはり格別なものです。舞台上で輝く生徒たちのエネルギー、保護者の方々が我が子を見守る視線、教師たちが生徒を熱心にサポートする姿に心から感動しました。
パフォーマンス前後にはKバレエ スタッフや保護者の方々とお話する機会がありましたが、バレエダンサーになるために「必要なこと」という点については多くの質問がありました。
私の見解では、ダンサーが成長する際に最も必要なのは心から「楽しむ」こと。踊り手が楽しいからこそ、観客も楽しむことができると考えています。子供が成長する第一歩はまず「楽しみ」ながら「できる」ことを増やしていくことであり、実際バレエを始めたばかりの生徒の多くがまずこの成長過程を経験します。
しかし、楽しむだけでは個々のレベルアップに限界があり、いつしか「楽しい」とは思えないステップや動きに挑戦しなければいけない時がきます。そこで生徒たちは初めて「努力」をして成功する新しい「楽しさ」を覚えます。教師の指導に耳を傾け、指導を元に体を動かし、汗をかき、身体を強化し、小さな目標を達成しながら、最終的に目標に向かういわゆるスモールステップを着実に踏むことで、「頑張ればできる」「努力すればできるようになる」という感覚を身につけ、成長していくことを覚えるのです。
個人差はありますが、バレエにおいては、小学校高学年から高校生くらいまでがこの方法で成長していく方が多いと思います。しかし、気をつけなくてはならないのは、頑張って汗をかき、教師に言われたことだけをやれば成長が確約されるというわけではありません。バレエダンサーとして成功したくても成功できなかった方たちの多くがこの「頑張って努力すれば成功する」方法論だけに頼ってしまった方が多いのではと推測します。
もちろん、教師の指導をきちんと聞き、頑張るのは決して悪いことではありません。また努力をせずに成功することはありません。ただ人が成長し続けるのには根性論や、肉体の強化だけでは限界があると感じますし、成長する最大の秘訣は、「工夫する楽しさ」を身につけることだと思っています。「考える」「知識を身につける」という知恵の部分を身につけなければならないということです。
プロを目指すとなると、この点はより重要になります。生徒は常に指導される受け身ですが、プロは自発的能力が必要となるからです。バレエダンサーに求められる自発能力とは、作品や音楽を理解し、感情、肉体を自在に制御する能力のこと。そして、この能力を身につけるには、自らの頭で考え、行動ができる「創造力」が必要なのです。創造力を育てていないダンサーは、困難に直面した時に行き詰まってしまいますが、工夫をする楽しさを知り、創造力を備えているダンサーは、どんな状況にあっても簡単に諦めることはしません。これは他の分野でも共通することなのではないでしょうか。
私は英国留学時代、自分の技術が伸びずに悩んでいた時に、熊川ディレクターから、「誰よりも上手になりたいと思うなら、人に言われることだけやり続けるのではなく、自分自身での工夫が必要だ」とアドバイスをいただきました。「目を養うこと、そして上手なダンサーの動き方、呼吸の仕方、癖なども覚え、自分に同じことができるのか試してみるのも良い」「自分で発見してできたことは忘れることはない」と、夜遅くまで話をしてくれたことは一生の宝物です。
のちにバレエ教師になり、教育学を勉強した際に、あの時ディレクターが語ってくれたことが「創造力」を高めるための工夫への一歩だったと気づき、改めて感動したものです。
「工夫する力」や「創造力」を身につけるのは簡単なことではなく、たくさんの挑戦をする時間と自分を見つめる時間が必要となります。しかし、「工夫する」ことを楽しむステージまでくるようになれば、人はいつまでも成長し続けられる人間になると私は信じていますし、「ただ楽しむ」とは全く異なる世界にいると感じられるはずです。
楽しむこと、汗をかいて頑張ること、そして工夫すること。個人の成長にはどのステージも必要になりますし、年齢差や成長のスピードによってタイミングはさまざまです。本当の楽しさを得るために大切な時期とステージがあることを教師たちが熟知し、生徒の創造性を高められるように、教師一丸となって生徒に向き合いたいと思っています。

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