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バレエ制作:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー 衣裳・美術:アントン・クラーヴェ
『カルメン』は、脚線もあらわなショートカットのヒロインと伊達者のドン・ホセが交わす官能的な情愛の描写によって、第二次世界大戦後の舞踏会に衝撃を与えた歴史的作品である。振付はフランス的なコケットリーに彩られた独創的な表現で知られる、ローラン・プティ。ヴォードビル的なにぎやかさ、楽しさの溢れる酒場のシーンから、アイドル闘牛士の美技に客席がいっせいに湧きかえる闘牛場の外で、ナイフの一閃とともにカルメンが命を落とす幕切れまで。きわめて高濃度・高密度な名場面が、息もつかせず展開させる。
バレエの動きの基本中の基本であるアン・ドゥオール(腰から下を外転した姿勢)をいたずらっぽくウィンクしながらひっくりかえしたような自然な歩行や、腰をキュっと突き出したポーズ。プティの登場人物たちは、お上品ゆえにちょっと近寄りがたいバレエのイメージをくつがえし、生身の人間の熱いアピールをくりかえす。 初演時にはプティ自身が踊って絶賛されたドン・ホセは、Kバレエにおいては常に熊川哲也の役であった。この冬の公演ではそれが、団員キャストに手渡され、個人の十八番から真の意味でのカンパニーのレパートリーへ成熟する。じつに喜ばしいことである。
世界トップクラスのスケールを誇るビッグカップル! 中村祥子(カルメン)×宮尾俊太郎(ドン・ホセ) 芸術監督・熊川が認める実力派プリンシパルの初競演! 松岡梨絵(カルメン)×清水健太(ドン・ホセ)
カルメン
振付:サー・フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ(「パガニーニの主題による狂詩曲」)
美術・衣裳:パトリック・コール・フィールド
照明:ジョン・B・リード
『ラプソディ』は、振付が緻密なフットワークを要する独特の身体使いで英国ロイヤル・バレエの礎を築いたアシュトン、音楽が技巧派ピアニストとしても鳴らした作曲家ラフマニノフによる『パガニーニ(悪魔的な超絶技巧のヴァイオリニスト)の主題による狂詩曲』、そして初演時の主役が絵に描いたようなスターだったバリシニコフという、いわば“天才の四乗”ともいうべき1980年初演のバレエである。手ごわいがそれだけにきらびやかで、名演を目の当たりにしたときのカタルシスもまた大きい。見どころはとにかく、主演の男性ダンサーの高等技術である。あるときは唐突に、またある時は奔放に次々と繰り出されて、そのスリリングな疾走感は“魔”が乗り移ったようでもある。そしてその荒ぶる魂を浄化し、身体運動の美を越えた次元に昇華する役割を果たすのが、バレリーナの清澄な動き。軽やかでしかも威厳に満ちた二人のデュエットは、天空へと飛翔するかのようなクライマックスを描き出す。Kバレエ初の海外公演でもあった2004年、ニューヨークはメトロポリタン歌劇場での上演が歓呼の声で受け止められたこともいまだ記憶に新しい。
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
『パキータ』は、バレエが隆盛を極めた19世紀の帝政ロシアの栄華を今に蘇らせたかのような、古式ゆかしく華やかな作品である。そもそもはスペインを舞台に、ロマ(ジプシー)とフランス貴族を巻き込んで展開する波乱と陰謀と恋の全幕バレエだったが、今に伝わるのは、後にロシアで大振付家プティパが改訂した版の一部。ほとんど抽象バレエのように洗練された主役カップルと女性ソリストたちのソロは、クラシック・バレエのステップアップの見本帳のように彩り鮮やかである。
演出・再振付:熊川哲也
音楽:ビョートル・イリイチ・チャイコフスキー
舞台美術・衣装:ヨランダ・ソナベンド/レズリー・トラヴァース
証明:足立 恒
kバレエの「白鳥の湖」はとても新鮮だ。幕が開いたとたん、舞台に清々しい空気が流れているような感じがする。ああ、今まで見たことのない「白鳥」だ、と胸がワクワクする。最も古典的なバレエ、これまで数え切れないほど見ている作品だから尚のこと、この新鮮さは貴重だ。
それでいて、すみずみまで古典なのである。このバレエには改訂版が多く、さまざまな解釈がほどこされている。悪魔のロットバルトが女であっても、それどころか白鳥が男であってさえも驚かないほど、世の中には新奇な「白鳥の湖」がいっぱいあるのだが、Kバレエの「白鳥の湖」はきっちり古典バレエの枠組みを守っている。
初めて見るように新鮮で、しかも古典的などと、どうしてそんなことが可能なのだろう?
それはたぶん、熊川哲也という演出振付家がこの古典を尊敬し、深く読み込んで、どんな細部も自分が納得いくまで考え抜いて答えを出したせいだと思う。ふつう古典というと、よく考えずに先人の手法をそのまま受け継いでしまいがちだが、それでは肝心の生気が抜けてしまう。彼はそれをしなかった。
その真摯な取り組みが、瀟洒な美術や人物たちの性格とドラマティックな人間関係、そして何より振付のディテイルに反映して、「白鳥の湖」に新しい生命を吹き込んだのだ。
古典が摩滅していく現代に、正しく古典的で、しかも新鮮。ほんとうに、ふしぎなバレエである。
第5回 朝日舞台芸術賞受賞 くるみ割り人形 総制作費10億円! バレエ界の常識を覆す壮大なスケールと比類なき完成度ー 演出家・熊川哲也の果てなきイマジネーションが生んだ前人未踏の超大作がかつてない夢とファンタジーの旅へと誘う!
演出・振付:熊川哲也
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
舞台美術・衣裳:ヨランダ・ソナベント/レズリー・トラヴァース
照明:足立 恒
熊川版「くるみ割り人形」がすてきなのは、出現する世界のスケールが大きいこと。クリスマスの夜に見た少女の夢というアットホームな物語が、壮大なパノラマに変貌した。
なにしろ装置がすばらしい。巨大な温室のようなガラス張りのサロンや、遙かエキゾティックな異国を思わせる人形の国、そして無限の宇宙にまで広がる雪の国。場面が転換するたびに「おおーっ!」と客席から歓声が上がるのは、バレエでは珍しい。そして私たちは現実の舞台を見ながら、まるで出来のいいアニメの世界に入り込んだようなファンタスティックな気分を味わうことになる。
それに踊りがすばらしい。振付家としての熊川哲也はこの「くるみ割り人形」で才能全開した、と少なくとも初演を見たときは思った(でもまだ先があるかもしれない)。パーティーの男性客の躍動的な社交ダンス、雪の国のきらめくようなコール・ド・バレエ、人形の国の住人たちの多国籍で個性的なキャラクター・ダンス。それにもまして、くるみ割り人形とマリー姫のグラン・パ・ド・ドゥが、華やかなテクニックに彩られ、情感と喜びにあふれた振付の傑作である。
それに物語もなかなかに複雑で、人形の国とねずみの国の対立抗争の因縁話にマリー姫と婚約者の純愛が絡んで、人間界の少女クララは魔法を解く仲介役。ドロッセルマイヤーも物語の中で大きな役割を担うのだ。
が、これ以上は話している余裕がない。あとはじっさいの舞台で確かめてほしい。
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